エッセイ:コワーキングは『理想の働き方』じゃない。 #cowjpadv2010
Posted by admin at 19:27 日時 2010/12/22
終身雇用制度が崩壊して若者は就職先がない。猪瀬直樹は「就職先は探せばある」と言うが、大企業に入れないことだけが若者が感じている閉塞感ではない。むしろ「探せばある」と思い中小で頑張ってみて、より疑問が増えた人も多いんじゃないだろうか。
働き方に対する疑問から、Web屋らしくWeb2.0の懐かしいバズワードにひっかけて働き方の変化を読み解き、さらにコワーキング・スペースが持つ意義を提案してみたい。
今回はコワーキング・アドベント・カレンダーに寄稿する記事として、今日更新することが前から決まっていたためにネタがたまってしまい、少し長くなってしまったが、お付き合いいただければ幸いだ。そもそもコワーキングとはなんじゃ?という方は、こちらの記事も合わせて読んでほしい。
「就職できない」ことではなく、「仕事」そのものに対する疑問なんだ
就職先は確かに探せばある。僕はIT業界でマークアップエンジニアとして働き始めた最初の会社が無くなってしまい転職しているので、転職活動を経験している。JUSOCoWorkingで出会った方も含め、身の回りの独立したWebクリエイターは以前に勤めていた会社が無くなったという方が多い。
IT業界は比較的流動性が高く実績重視の世界なので、それなりに勤めていれば関西でも転職先を探すことはできる。しかし転職活動は気が重い作業だった。転職しても同じような作業をこなすことになるだろうし、IT業界はブラックとは言えない会社でもだいたいはグレーな労働環境なので、技術の蓄積は深夜や休日に自力でやるしかないし、そうなると新しい人に出会う機会もほとんどない。
同じような疑問は他の色んな業種で働いている人にも当てはまるんじゃないだろうか。人口減少と高齢化の時代、経済全体が縮小傾向に向かうなかで、日本は衰退産業にあふれてる。はたしてこのまま会社に引きこもっていていいんだろうか…。
ここにあるのは「就職先が見つからない」ことではなく、「仕事」そのものに対する疑問、もしくは不安と言ってもいいかもしれない。
オフィスで働く意味が分からなくなってきた
会社では、自分で買ったMacBook Proより会社のCeleron Mマシンの方がはるかに遅いことが不満だった。デザイナーはいい感じのMacを持っていたが、それだって2世代は古いMacだ。いまどきのパソコンは電力も対して使わない。サーバーラックはデータセンターにあるから社内にサーバーもない。
つまり、自宅の作業環境のほうが会社の作業環境より高スペックでお金も大してかかってなかったりする。それって、おかしいんじゃないの?
そう思っている人はかなりいて、おそらく「ノマド」という言葉を知っているだろう。「ノマド」は知らなくても、佐々木俊尚が書いた『仕事するのにオフィスはいらない』という書名くらいは知っているかもしれない。この本で紹介されている「ノマド」とは、スマートフォンやクラウドサービスを駆使し、オフィスを持たずに仕事をするフリーランスのことだ。
でも、手に職を持ち個人でやっていけるような人は、一部の優秀な人で、大多数は誰かに雇われるしかしょうがないじゃないか。
そう思っている人は多いだろう。実はそういう既成概念を変えてくれる可能性を持っているのがノマドからさらに進んだ「コワーキング」という働き方なのだ。ここでコワーキングについて書く前に、オフィスの変化についてもう少し考えてみたい。
ポスト・オフィスワーカー
産業革命と機械化により、大規模な機械を労働者が動かすことで、製品を大量に生産することが可能になった。そのような大きな機械はひとりで動かせないから、毎日全員が決まった時間に集まり、電源を入れて動かし、決まった時間になると機械を止めて終りにした。
オフィスワークに中心が移っても、組織は大きなままだった。社長を頂点としたヒエラルキーによって大きな組織を管理するには、やはり決まりが必要だ。タイムカードで労働時間を管理し、組織は目的別の部に分かれ、基本的に社内で企業活動に必要なものをすべて分担する。
しかし現在、中心を持たない新しい組織が生まれ始めている。アメリカの企業37signalsが『小さなチーム、大きな仕事—37シグナルズ成功の法則』で提示した新しい働き方(原題は”REWORK”だから働き方の再発明と言ってもいいかもしれない)は世の中に衝撃を与えた。社員は大陸を隔てた複数の都市に散らばっていて、しかも少人数体制のままでビジネスを成り立たせている。それを可能にしているひとつは、インターネットによって拡大したコミュニケーション手段だ。
働き方もロングテール化する
ここで少し働くということから離れ、モノを売るということを考えてみたい。雇用よりも実際の商品の売買のほうが市場経済の影響を受けやすく、先に大きく変化している。その一つが「ロングテール」だ。
実店舗で陳列スペースが限られている場合、あまり売れない商品を置くのは無駄だった。あまり売れない商品を置くとしたら、貴重で高価なものに限られた。それがオンラインで陳列スペースのコストが限り無く小さくなり、あまり売れない商品でも売ることができるようになり、新しいビジネスが生まれた。
モノを売るということが変化したいま、物理的なオフィスから解放され、働き方もロングテール化するのではないだろうか。中心になるのはオフィスに勤める正社員であることには変りないだろうが、企業はますます外部のフリーランスを活用するようになるだろう。
以前は個人として活躍できるのは貴重で高価な知識や技術を持つ人間に限られた。それがオンラインでコミュニケーションにかかるコストが限り無く小さくなり、特殊な仕事でなくても外部のリソースを活用することができるようになった。
「手に職を持つ一部の人間が個人としてやっていける」のはフリーランス1.0までである。働き方がロングテール化したフリーランス2.0においては、決して人より優れた特殊な能力は要らない。必要なのはロングテールの中に飛び込むことだ。
モノの売買に比べて人々の意識や人生観に関わるため変化は遅いが、いずれ新しい働き方が浸透すると思う。
コワーキング・スペースはターミナルステーション
フリーランス2.0時代においては、フリーランスが集まるコワーキング・スペースは企業とフリーランスの中間に位置するハブのような役割をはたすようになるだろう。まさに地下鉄の張り巡らされた都市におけるターミナルステーションに近いイメージ。いずれは財務や経営の中心部をオフィスに残し、クリエイティブな人間をコワーキング・スペースに置くような企業も産まれるだろうと思っている。
コスト削減をしたい企業がフリーランスを探すとき、最も問題になるのが信頼できる人間を探す方法だ。企業と才能を引きあわせるキュレーション機能はコワーキング・スペースを管理するオーナーの重要な役割になるのではないだろうか。さしずめターミナルステーションの駅長といったところだ。
フリーランスにとってもコワーキング・スペースは魅力的な働き場となる。転職する場合に必要なのは実績だが、フリーランスとして仕事をする場合に必要なのは信頼だ。この場合の信頼とはウッフィーと言う方が近い概念かもしれない。
ソーシャルな時代に必要とされる信頼は1回きりのものではなく、継続するもの。ウッフィーも突然溜まって消費してなくなってしまうものではなく、個人と個人の間で蓄積されていくものだ。人脈という言葉の意味も、配った名刺の数から、人間関係の質へと変化している。
人間関係を進展させるのに最も効果的なのはやはり直接顔を合わせて会うことだから、その意味でも人が集まるコワーキング・スペースは価値を持っている。
働き方の変化はすぐそこに。
このように意識を変化へと切り替えると、あらゆるニュースがコワーキングの浸透を裏付けているように思えてくる。単純に、いまの働き方で生じている無理やきしみを解消するだけで、余った時間ですばらしいイノベーションが産まれるように思えてならない。
コワーキングは『理想の働き方』じゃない。すでに始まっている変化に過ぎない。
菅総理が一に雇用、二に雇用、三に雇用と叫んでいる間に変化はすでに始まっている。この流れに乗るかどうかは、あなた次第だ。
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